エナジーハーベストとは、身の回りにあるわずかなエネルギーを活用する発電技術のことです。エネルギー(エナジー)を採取(ハーベスト)し、振動、熱、太陽光、電磁波など電力に変換します。エナジーハーベストは、「環境発電」とも呼ばれます。
エナジーハーベストとは、振動などのエネルギーを活用する技術
エナジーハーベストとは、身の回りにあるわずかなエネルギーを活用する発電技術のことです。
エネルギー(エナジー)を採取(ハーベスト)し、振動、熱、太陽光、電磁波など電力に変換することから、エナジーハーベスト、エネルギーハーベスト、エナジーハーベスティング、エネルギーハーベスティングと表現します(以下、「エナジーハーベスト」と統一します)。
また、エナジーハーベストは、「環境発電」とも呼ばれます。
エナジーハーベストの4つメリット
エナジーハーベストには、以下のメリットがあります。
- 電源がない場所に設置できる
- 工事費や電気代などのコストを削減できる
- メンテナンス回数を削減し、またはメンテナンスそのものが不要である(メンテナンスフリー)
- 人が行けない場所、行きにくい場所、行きたくない場所にも設置できる
【メリット1】電源がない場所に設置できる
エナジーハーベストの1つ目のメリットは、電源がない場所に設置できることです。
通常の機器では、電力を供給する際、電池や電源配線を必要とします。
一方エナジーハーベストは、エネルギー源が身の回りにあるエネルギーです。このため、電池や外部の電源からの電力供給ための配線を必要としません。
このため、元々電源がない場所にも設置できます。
【メリット2】工事費や電気代などのコストを削減
エナジーハーベストの2つ目のメリットは、工事費や電気代などのコストを削減できることです。
エナジーハーベストは、電池や外部の電源からの電力供給ための配線を必要としません。
その結果、工事費や電気代などのコストを削減できます。
【メリット3】故障しない限り半永久的にメンテナンスフリー
エナジーハーベストの3つ目のメリットは、故障しない限り半永久的にメンテナンスフリーであることです。
通常の機器では、電池や外部の電源からの電力供給のための配線を必要とします。このため、定期的な電池交換や、配線のメンテナンスが必要になります。
一方、エナジーハーベストは、電力の供給を必要とせず、身の回りのエネルギーで給電を完結します。このため、定期的な電池交換・配線のメンテナンスが不要になります。
また、エナジーハーベストから何らかの形でデータを取得すれば、遠方にいても機器の稼働状況を監視したり、故障を検知できます。
このため、定期的な機器のメンテナンスも不要です。
その結果、故障しない限り、半永久的にメンテナンスなしで使用できます。
【メリット4】人が行けない場所、行きにくい場所、行きたくない場所にも設置できる
エナジーハーベストの4つ目のメリットは、人が行けない場所、行きにくい場所、行きたくない場所にも設置できることです。
エナジーハーベストは、前述の通り、故障しない限り半永久的にメンテナンスなしで使用できます。
このため、危険な工場や、猛暑や豪雨の中の農地、人里から離れた山中など、人が行けない場所、行きにくい場所、行きたくない場所に設置したとしても、メンテナンスのための人員の派遣が不要またはその必要回数が少なくなります。
エナジーハーベストのデメリット
エナジーハーベストには、一方で以下のデメリットがあります。
- 得られる電力が微細
- 得られる電力が不安定
【デメリット1】得られる電力が微細
エナジーハーベストの1つ目のデメリットは、得られる電力が微細であることです。
10㎠の発電デバイスを使う場合、得られる電力は、エナジーハーベストの種類によって発電効率が異なりますが、おおよそ数μW~1W程度です。
これに対し、実際の機器の消費電力としては、数μWで腕時計、1Wで携帯電話の送受信が動作します。
このように、得られる電力が微細なため、エナジーハーベストだけで電力供給が可能な機器は、小型かつ低消費電力なものに限られます。
逆に、より多くの電力を発電しようとした場合、当然ながら、より大規模な設備が必要となります(例:太陽光発電システム等)。
【デメリット2】得られる電力が不安定
エナジーハーベストの2つ目のデメリットは、得られる電力が不安定であることです。
エナジーハーベストは、周囲の環境の変化によって発電量が変動するため、電源供給が不安定になります。
この点から、エナジーハーベストで電力を供給する場合、消費電力によっては、他のベース電源や蓄電池が必要となる場合もあります。
ポイント
- エナジーハーベスト(環境発電)とは、身の回りにあるわずかなエネルギーを活用する発電技術のこと
- エナジーハーベストは、工事費や電気代のコスト削減、メンテナンスフリー、設置場所の自由度が高いといったメリットがある
- エナジーハーベストは、その反面、得られる電力がわずか・不安定というデメリットがある
IoTとエナジーハーベストの相性
こういったエナジーハーベスト技術は、IoT機器の電源供給の一つとして用いられています。
IoT(読み方:アイオーティー)
IoTとは、「モノのインターネット」を意味するInternet of Thingsの略。世の中に存在するモノに通信機能を持たせ、相互通信やインターネットへの接続を実現すること。これにより、遠隔操作や自動制御などを実現できる。
近年、IoT機器の活用が高まっていますが、こういった機器を設置するには、当然電源供給が必要になります。このため、従来IoT機器を設置する箇所は限られていました。
しかし、エナジーハーベスト技術により、身の回りから電源供給が行えるようになったため、IoT機器は、人間が行きづらい危険な場所や、二度と行けない場所にも設置できるようになりました。
また、IoTで使用するセンサーで一般的に使用される電池は、もともと電力コストが高いです。ここでエナジーハーベスト技術を採用することで、電力コスト(ランニングコスト)の低減が可能です。
以上のように、エナジーハーベストは、IoTの更なる実用化に向けて、更に取り入れられるべき技術と言えます。
ポイント
- エナジーハーベストにより、従来設置場所が限られていたIoT機器の設置可能な場所が広がった
- エナジーハーベストにより、IoT機器の電力コスト(ランニングコスト)の低減も可能になった
- エナジーハーベストは、IoTの更なる実用化に向けて取り入れられるべき技術
エナジーハーベストの例
エナジーハーベストの電力源の例として、以下が上げられます。
- 電磁波を使ったエナジーハーベスト
- 振動を使ったエナジーハーベスト
- 熱電を使ったエナジーハーベスト
電磁波を使ったエナジーハーベスト(電磁波発電)
電磁波をエネルギー源として利用する発電技術は、「電磁波発電」と呼ばれます。
電磁波とは、電気が流れるところに発生するエネルギーの波のことを指します。テレビやラジオ、携帯電話などが、エネルギーや情報を通信する際に発信しています。また、電子機器や電子レンジからも微細な電磁波が放射されています。
電磁波発電では、レクテナと呼ばれるアンテナを使用し、エネルギーを直流電流に変換して発電します。
振動を使ったエナジーハーベスト(振動発電)
振動をエネルギー源として利用する発電技術は、「振動発電」と呼ばれます。
振動発電では、歩行や車の走行などの身の回りの生活振動や、工場設備などの振動を採取して活用します。
振動によって発生した圧力は、圧電素子や静電誘導、電磁誘導などを介して電力に変換されます。
熱電を使ったエナジーハーベスト(熱電発電)
熱をエネルギー源として利用する発電技術は、「熱電発電」と呼ばれます。
熱電発電では、モーターやエンジン、ビルや工場の配管などから発せられる熱エネルギーを採取して活用します。
また、ペルチェ現象と呼ばれるエネルギー発生現象によって、発電する方法もあります。
ペルチェ現象とは
ペルチェ現象とは、金属などの物質の両端に温度差を与えると、電圧が発生する現象のこと。
ポイント
- エナジーハーベストのエネルギー源として、電磁波や振動、熱電などが活用されている
エナジーハーベストが抱える課題
エナジーハーベストが抱える課題は、以下の3つです。
- 発電効率
- 機器の耐久性
- セキュリティ
【課題1】発電効率
前述の通り、現状のエナジーハーベストは、得られる電力が微細で不安定です。わずかで不安定なエネルギーを、効率よく変換する必要があります。
このため、エネルギーの変換効率向上や、最適化されたワイヤレス通信規格や、チップによる効率化が必要になります。また、より消費電力の低いセンサーの開発や、他の電力供給技術と組み合わせるという方法も必要になります。
【課題2】機器の耐久性
エナジーハーベストは、半永久的にメンテナンスが不要なため、人が行けない危険な場所にも設置が可能になるというメリットがあります。
他方、様々な環境下で長期間にわたって性能を維持しなければならないため、機器に高い耐久性が必要になります。
【課題3】セキュリティ
エナジーハーベスト技術を用いたIoT機器は、無数のネットワークに接続しているため、セキュリティの課題も存在します。
悪意のある第三者からDoSなどの攻撃を行われる恐れもあります。しかし、暗号技術強化などの方法でセキュリティを確保しようとすると、その分消費電力が増加してしまい、エナジーハーベストのエネルギー供給だけでは機能できない可能性もあります。
エナジーハーベストのセキュリティ問題を解決するには、低消費電力でも動作する暗号の通信方式の開発や、低消費電力なCPUを採用するなど、消費電力とセキュリティのトレードオフを克服することが必要になります。
ポイント
- エナジーハーベストは、得られる電力が微細で不安定なため、技術向上によって発電効率を向上させる必要がある
- エナジーハーベストは長期間にわたって性能を維持しなければならないため、機器に高い耐久性が必要になる
- エナジーハーベストは、消費電力とセキュリティのトレードオフを克服することが必要になる
エナジーハーベストの市場規模
市場調査会社のグローバルインフォメーションによると、エナジーハーベストの市場規模は、2025年には7億7500万米ドルに達し、CAGR9.8%で成長すると予測されています。
エネルギーハーベスティング(環境発電) システム市場は、2020年の4億8500万米ドルから2025年には7億7500万米ドルに達し、CAGR9.8%で成長すると予測されています。市場の成長を促進する主な要因には、メンテナンスを必要としない安全で電力効率が高い耐久性のあるシステムへの需要、自動化におけるIoTの広範な実装とビルやホームオートメーションにおけるエネルギーハーベスティング技術、グリーンエネルギーの増加傾向と政府による取り組み、ワイヤレスセンサーネットワークの採用の拡大などがあります。
出典:エネルギーハーベスティングシステムの市場規模、2025年には7億7500万米ドルへ、CAGRも9.8%で成長すると予測
また、エナジーハーベストの中でも、ビルディングおよびホームオートメーション分野が最高のCAGRで成長すると予測されています。
この成長の背景には、エネルギーハーベスティングデバイスやセンサーを実装したホームオートメーションおよび制御システム向けのワイヤレスセンサーネットワーキング(WNS)、そしてモノのインターネット(IoT)の採用率が高まっていることが挙げられます。米国では、2017年のCO2排出量に占めるビルディング由来の割合が39%を占めています。そのため、同国ではエネルギー管理の改善が急務となっています。南北アメリカでは、様々なエネルギーハーベスティングシステムの導入が進んでいます。学校教室での入室状況の測定や温度管理、商業ビルでの入居状況に応じた自動照明システム、ホテルでのスマートパワーコントロール、住宅でのエネルギー消費量管理などが挙げられます。
出典:エネルギーハーベスティングシステムの市場規模、2025年には7億7500万米ドルへ、CAGRも9.8%で成長すると予測
ポイント
- エナジーハーベストの市場規模は、2025年には7億7500万米ドルに達し、CAGR9.8%で成長する見込み
- ビルディングおよびホームオートメーション分野が最高のCAGRで成長すると予測されている
エナジーハーベストのデファクトスタンダード「EnOcean(読み方:エンオーシャン)」とは?
エナジーハーベストに適した無線規格としてEnOcean(読み方:エンオーシャン)があります。
EnOceanは、電池レス・配線レスのセンサを実現している無線通信技術です。光や温度、振動から電気エネルギーへ変換するエネルギーコンバータを搭載しています。
このように、光、温度、振動等を電力源とし、電池等の電源や有線の配線を必要とせず、センサーや無線通信を稼働させる仕組みが、EnOceanの特徴です。
EnOceanの無線モジュールを使用すると、エナジーハーベスト技術を採用した電池不要・メンテナンスフリーのIoT機器を開発できます。
例えば、以下の仕組みを実現できます。
- スイッチで押された力を電気エネルギーに変換する
- 小型のソーラーセルで集めた光を電気エネルギーに変換する
ポイント
- エナジーハーベストのデファクトスタンダードは、EnOcean
- EnOceanは電池レス・配線レスのセンサを実現した無線通信技術
EnOceanの利用例(弊社製品採用事例)
以下の画像は、EnOceanの技術を使った弊社製品「iot-mos」の採用事例です。
この事例では、トイレのドアノブにエナジーハーベストの機能を持つEnOceanのモジュールが組み込まれています。ドアノブの開閉動作によって微弱な電波が飛ばされ、WiFiのゲートウェイを中継し、クラウドへデータが通知される仕組みとなっています。ドアノブはもちろん電池レスです。
IoTプラットフォーム「iot-mos」では、このEnOceanをWiFiなど他の無線に中継するゲートウェイ機能を有し、クラウドへ通知する技術を提供しています。
iot-mosについて、詳細をご希望の方は、以下より資料をダウンロードしてください。