エッジコンピューティング

IoTや5Gの普及に伴い注目されている「エッジコンピューティング」をご存じでしょうか。

エッジコンピューティングとは、コンピュータネットワークのエッジ部分でデータを処理するネットワーク技術です。

この技術が実現したのは、マイコンのビット幅の増加、マルチコア化、浮動小数点演算強化といった処理性能が向上したことが背景にあります。

この記事では、エッジコンピューティングの特長や活用例を紹介します。

エッジコンピューティングの概要

エッジコンピューティングとは

エッジコンピューティングは、ネットワーク末端であるIoTデバイスやその周辺領域に配置したサーバーでデータを処理する手法です。クラウドに送信するのは予めエッジ側で処理されたデータになるため、通信遅延やネットワーク負荷を抑えることができます。

製造、農業、医療などの幅広い業界で、大量の画像を取得してエッジ側で解析や数値化などを行ないたい場面などで利用されています。

AIを端末に搭載し、端末側で学習済みモデルを用いて推論をおこなってから、結果をクラウドに送信する仕組みであるエッジAIについては、こちらの記事「組込みシステムにおけるエッジAIとは?AIの概念やエッジ処理の特長を紹介」で詳しく紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。

エッジコンピューティングの特長

通信

リアルタイム性

クラウドコンピューティングでは、端末からクラウドに向けてデータ通信を行ないます。この通信に掛かる時間は「1/10秒ほど」と言われています。また、クラウドで処理した結果を端末側に送る場合は更に時間がかかります。

一方、エッジコンピューティングでは端末に近いところで処理を行なうため、データ通信時に遅延が減らせます。

エッジコンピューティングは4Gでも使用可能な技術ではありますが、5Gの登場によりさらに注目されています。5Gと組み合わせることで、従来は困難であった、僅かな時間でも遅延させたくない自動運転やロボットアームなどのリアルタイム性が重視されるアプリケーションでの活用が可能になります。

参考:総務省「 情報通信白書令和2年版 第1部 5Gが促すデジタル変革と新たな日常の構築

通信量の削減

エッジコンピューティングでは、データを処理して、得られた結果だけをクラウドにアップロードします。そのため、通信量やストレージ量を抑えることができ、通信コストの削減に繋がります。

またこれまで、収集したデータをすべてクラウドに送信していたケースではネットワークに遅延が発生することもありました。エッジコンピューティングを活用して通信量を抑えることで、通信遅延の改善もできます。

セキュリティリスクの軽減

エッジコンピューティングはで、企業がデータをローカルで処理してオフラインで保存することができます。

また、データをクラウドに送信する際、エッジ処理をしてプライバシーに関する情報ではなく結果データだけをアップロードすることが可能です。

例えば人流データを取るシステムの場合、人物が写った画像データをクラウドで処理をする際に、通信中もしくはストレージ上で画像が盗まれたり悪用された場合は問題になります。しかし、エッジ処理(画像処理)をして必要な結果(人数情報など)だけをクラウドに送信・保存する場合、この問題は起こりえません。

このように、セキュリティ脅威のリスクを減らすことができます。

エッジコンピューティングの利用例

エッジコンピューティングはどんなユースケースに適しているのでしょうか。例を紹介します。

スマートファクトリー

工場では、製造ラインにカメラやセンサーが配置され、製品や部品をチェックして不良品の判別を行ないます。

複数の機器を用いて重い動画や画像データを大量に扱うと通信量が膨大になりますが、エッジコンピューティングを利用することでデータトラフィックを最適化できます。

エッジコンピューティングはスマートファクトリーを加速させる技術革新と言えます。

参考:NECソリューションイノベータ株式会社「エッジコンピューティングとは?IoTの活用事例も解説」

アグリテック

近年、農業においてもIT活用が進んでいます。

例えば、農場に複数のセンサーを設置し、天候、温度、湿度、日照量、土壌の水分量といった膨大なデータを分析・活用し、作物が必要とする水分や肥料の量を計算して自動で与えることも可能です。

他にも、各センサーで取得するデータを基に最適な収穫日の予測を行なったり、AIや動画解析技術を用いて作物収穫量の予測精度を向上させようとしている企業もあります。

このように、膨大なデータを扱って判断をするケースでは、エッジコンピューティングによるローカル処理がおすすめです。

店舗マーケティング

店舗に設置したカメラの画像データを分析し、いつ・どんな客層が来店したか、どのような導線で買い物をしたかなどを分析することもできます。

監視カメラは常時稼働しているため、画像や動画データが溜まりやすく、保有するデータ量が重くなりがちです。

大手小売業では店舗数も多いため、本部で全店舗が取得した全データを管理・分析するのは現実的ではありません。エッジコンピューティングによって、各店舗の端末側で必要なデータ処理をするのが有効です。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの関係性

クラウドコンピューティングとは

クラウドコンピューティングでは、情報をクラウドに集約して、クラウド上のサーバーでデータを処理します。

エッジ側で処理をさせない場合は、全ての情報がクラウド上でデータを処理されることになります。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングの関係とは

エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングの代わりになるものかと言われると、必ずしもそうではありません。

例えば、リアルタイム処理はエッジ側で行なわれますが、そのために必要な機械学習アルゴリズムなどは、一般的にクラウド側で生成されます。

また、IoT端末から生成された大量のデータを分析して活用したい場合、エッジ側ではリアルタイム処理をしながら、それとは別でクラウド側に生データを送り、分析やアルゴリズム生成をして結果をエッジ側に反映させることもできます。

つまり、リアルタイム性を重視することでエッジ側の処理が注目される場合でも、クラウド側にも役割があるのです。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングは、どちらかだけを選ぶ必要はなく、補完的な関係だと言えるでしょう。

まとめ

エッジコンピューティングは、進化を続けるネットワーク技術と組み合わせることで今後も画期的なサービスを実現していくことが期待できます。ぜひ注目していきましょう。