
組込み機器の開発において、開発効率と製品の品質を左右する重要な要素の1つが統合開発環境(IDE)です。特に、組込み向けコンパイラの選択は生成コードの実行速度やメモリ使用量、信頼性に直結し、プロジェクト全体に大きな影響を及ぼします。
適切なツールを選べば、開発者は本来の設計業務に集中することが可能です。逆に不適切な選択はデバッグや最適化に過剰な時間を費やす原因となり得ます。
本記事では、IAR Systems社のEWARM(IAR Embedded Workbench for ARM)の特徴やメリットなどを解説します。
EWARMとは

EWARMとは、IAR Systems社が提供するARMマイコン向け統合開発環境のことです。ソフトウェア開発に必要なツール群が一体化しており、コンパクトなコード生成を実現する包括的な開発プラットフォームとなっています。
エディタやコンパイラ、リンカ、デバッガなどの機能が統合され、コード作成からビルド、デプロイ、デバッグまで1つの環境で完結できます。
対応するプロセッサとアーキテクチャ
EWARMは対応デバイスの幅広さでも知られています。9,200以上のマイコンに対応し、Arm Cortex-M/Cortex-R/Cortex-Aシリーズといった主要な32ビットコアをほぼすべて網羅します。
さらに、一部の64ビットArmコア(Armv8-Aなど)にも対応しており、最新の高性能プロセッサも開発可能です。
参照:IAR System Cortex-M23およびCortex-M33におけるArmv8-M アーキテクチャ徹底解説
なぜEWARMが選ばれるのか?
EWARMが組込み開発現場で選ばれるのは、高い信頼性と実績があるからです。IAR Systems社は組込みツール分野で豊富な実績を持ち、その製品は自動車や産業機器、IoTなどの分野で世界中の企業で広く採用されています。
複数の組込み製品を扱う現場では、異なるチップベンダのマイコンを扱う場合があります。各チップベンダが用意するIDEを使えますが、同じArmアーキテクチャであればEWARM1つで開発を行うことが可能です。操作・設定などの学習コストやプロジェクトファイルの管理コストを下げられます。
参照:arm Partner Ecosystem Catalog
EWARMの主な特徴

EWARMは、ARM向けに最適化された高性能コンパイラと効率的な開発環境を中心に、デバッグから安全規格対応まで、プロフェッショナルな開発現場のさまざまなニーズに応える特徴を持っています。
高性能なコンパイラと最適化機能
EWARMに含まれるIAR C/C++コンパイラは、Arm向けに高度な最適化を行い、コンパクトなコードを生成できます。長年培った最適化技術により卓越した実行性能とコード密度を実現しており、用途に応じてサイズ優先か速度優先かの最適化度合いも柔軟に調整可能です。
コンパイラに最適化を任せることで手作業の微調整が減り、開発効率を高められます。
参照:STMicroelectronics Complete devt environment generating fast compact code
使いやすい統合開発環境(IDE)
EWARMのIDEは、シンプルな単一プロジェクトから複数コンフィギュレーションを含む大規模なマルチプロジェクトまで一貫して管理できます。ソースコードブラウザやコード補完、構文ハイライト付きのエディタを備え快適にコーディングできます。
コンパイラやアセンブラ、リンカ、デバッガといった開発ツール群もシームレスに統合されているため、複数のツールを行き来する必要がなく効率的です。
参照:RENESAS IAR Embedded Workbench
デバッグ機能の充実
EWARMに含まれるC-SPYデバッガは、トレース取得やコードカバレッジ解析、関数プロファイル、RTOS認識デバッグなど高度な機能を備えています。プロセッサコアのシミュレータも内蔵しているため、ハードウェアが手元になくても基本的なコード動作を検証可能です。
これらにより複雑なシステムでも効率的に問題箇所を特定でき、バグの早期発見と解決に役立ちます。
参照:IAR System 最新のソフトウェア開発チームのためのプラットフォーム
MISRA-Cなどの規格対応
EWARMは、安全性や信頼性が要求される開発向けにコーディング規約の遵守を支援する機能も備えています。統合された静的解析ツール「C-STAT」によりMISRA Cなどのルール違反を自動チェックし、潜在的なバグを早期に発見して詳細なレポートで修正に活かせます。
実行時に、エラー検出ツール「C-RUN」を用いれば、コード実行中の問題も検知でき、安全規格に準拠した高品質な開発を行うことが可能です。
参照:IAR System 最新のソフトウェア開発チームのためのプラットフォーム
EWARM導入のメリットと課題

EWARMにはメリットも多い一方で、考慮すべき課題も存在します。開発チームの規模や予算、プロジェクトの性質に応じて、これらのポイントを慎重に検討することが重要です。
導入のメリット
EWARMを導入すれば、長期的に見て開発効率と品質向上に寄与するメリットが得られます。手厚い技術サポートを受けられる上、オンライン講座や豊富なサンプルコードも提供されるため、ツールを導入するハードルは高くありません。
チップベンダが提供するサンプルに、EWARM環境のプロジェクトも用意されていることがあります。
参照:IAR System How to stay focused on your code
課題
一方で、課題もあります。まず、有償ツールゆえ初期導入コストがかかります。予算に制約のあるプロジェクトでは導入のハードルとなります。
また、学習コストがかかる点も課題の1つです。既存の環境から移行する場合、EWARM固有の設定や操作に慣れるまで時間を要するでしょう。この点は、サポートをうまく活用するのがおすすめです。
まとめ
EWARMはARM組込み開発向けIDEとして、高性能なコンパイラ最適化と豊富なデバッグ機能により開発効率とコード品質の両立を支援するツールです。信頼性と実績の高さから、自動車や医療など安全性が重視されるプロジェクトでも広く採用されています。
EWARMの導入検討にあたって、評価版も用意されており、アカウント登録により14日間無料で試すことができます。現在お使いのIDEと比較してみてはいかがでしょうか。